不動産コンサルティングの現場から 第25回
現在の販売価格が1億1000万円。売主との打合せの結果、相場よりだいぶ高い金額で
販売開始しているのは事実。今までの問い合わせも、「高いよね」なんて言われる事は
しょっちゅうだった。
「指値ですか、まったく効きませんとは言いませんけど、どれくらいの価格なら買付
もらえそうなんですか」
こちらからいくらまでならと、いきなり手の内を明かすのも、明かしたように見せるの
も一つだが、まずは水を向けてみる。電話の横でブツブツと指示が飛んでいる。
「・・・・。端数は切って欲しいんです、1億ちょうどで希望してらっしゃいます」
「・・・・。え、端数って、まさか1000万円のことですか?」
とりあえず驚いてみる。
つづく
不動産コンサルティングの現場から 第26回
1000万円を遥かに超える指値なんて、そもそもの価格帯が大きい事業用不動産ではザラ
で、自分では数え切れないほどやってきたが、指値される立場となれば話は別だ。最終
的な着地点を探るまでは応酬が続く。
「でもこの場所って、結構治安悪いんですけど御存知ですか?」
と、向こうもこちらを揺さぶってくる。販売するにあたり、こちらの弱みと思ってい
るのであろう駄目材料を並べ立てて、まくしたててくる。電話の向こうの、ふくれっ
面が想像できてしまう。
「ま、繁華街だから治安悪いのはしょうがないですよね」
「・・・」
電話越しでも、ボソボソと横から指示が出ているのが分かる。こちらの本音として、
1億でまとまるのなら御の字だが、どこまで数字を伸ばせるかは少しはやってみる
必要がある。ただ、こちら側も管理引き継ぎがスムーズにいけていないという弱み
もあった。
「あの、もし、本当に1億で購入希望なら、具体的に買付承諾書を頂かない事には、
こちらも売主に話ができないですよね」
「分かりました。そしたら、先にローンをあたりたいので、謄本関係等の資料を頂き
たいのですが」
つづく
不動産コンサルティングの現場から 第27回
細かい資料を要求してくるとなると、いよいよ本格的に銀行融資の打診をするのだ
ろうと推測できる。要求のあった資料以外にも、購入の判断材料となるであろう資
料は送付させて貰った。
それから1週間後、正式な買付承諾書が届く。
その価格、1億ちょうど。ローン特約あり、ファイナンスはS銀行とあった。
書面を確認後、電話をかける。
「TK不動産です」
明るさも何もない、ずいぶんな低音。
「シーエフネッツの中元と申しますが、相馬さんいらっしゃいますか?」
「お待ちください」
これが同業者じゃなく、エンドユーザーからの電話だったらもっと対応が違うの
かもしれないが、あんまりこの人とは取引したくないなという気持ちになる。
「はい、お電話変わりました。相馬です」
「あぁ相馬さん、買付どうもありがとうございました。やっぱり1億が上限ですかね」
「銀行評価あたったんですけど、あんまり評価でなくて融資金額が伸びないんですよ。
そうなると、その価格が目いっぱいでした」
事前に、付き合いのある金融機関いくつかには評価依頼を掛けてあった。各行の出てい
た評価金額は8000万円前後。そうすると、やはり具体的な買付となれば、収支の事
も考えると、やはり9000万円前後で入ってくる可能性が高いとは考えていた。
それが1億の買付ともなれば、本音はすぐにでも決済したい価格ではあった。
「いずれにせよ、いったん売主さんにあたってはみます」
つづく